私はイランに4年と3か月間滞在しましたが、派遣される時点ではイランについてそれほど知識はありませんでした。ただし、パキスタンに2か月滞在したことがあったので、イスラム教の国ということではある程度の推測はできました。禁酒国であることを知りながらも、家内はアル中にならないようにと言っていたくらいです。
そもそも私は自分の派遣される国をある程度選べるので、イランでの仕事については自らの意思で行きたいと思ったものです。西アジアの国、ペルシャ帝国という歴史を持つ国、そういう意味で興味がありました。違った価値観、歴史観、そういうものを持つ国に魅力を感じたのです。
そうは言っても、中東の国に長期滞在するというのは初めての経験でしたから、不安がないとは言い切ることはできませんでした。ただ、私はイラン人のいい意味でのいい加減さというものに期待するというものはありました。多分、日本に伝わってくるイランと実態とは違うだろうという直感のようなものでした。
イランに着いて真っ先に直面する課題が生活空間の整備です。到着直後は、既に手配されていた長期滞在者用のホテルで過ごすことになりました。もちろん気に入れば年単位で滞在することはできますが、長期滞在者用とは言え、ホテルとアパートとでは広さや設備が違うので、いずれ気に入ったアパートを探して出て行くことになるでしょう。
手配されていた長期滞在者用のホテルは、意外にもどこの国にもあるような設備でした。広々としているし、トイレも完全に洋式の水洗便所でした。部屋の中に暖炉があるのを知って嬉しくなりました。私の人生の中で暖炉を使ったという経験はなく、しかも暖炉のある生活になんとなく憧れがありました。もっともイランの暖炉は陶器製の薪の下から都市ガスが燃焼するというもので、本物の暖炉とは違いますが、それでも一応暖炉と言えるでしょう。
私がイランに着いたのは1月でした。到着した翌日、外では雪が降っていました。暖炉とスチームによる部屋の暖房がありましたが、個々の部屋で暖房装置をオンにしないといけないので、外から帰ったときには部屋が暖まるまでに少し時間が掛かりました。
部屋から外を見ると、そこにあったものに驚かされました。なんと北朝鮮の大使館があったのです。窓からはキムチに使うのでしょう、大根などの野菜が干してありました。北朝鮮の大使館の直ぐ隣で、私の部屋から丸見えというところでしたから、ちょっと不気味な感じです。このホテルを出た理由のひとつかも知れません。拉致でもされたりしたら、笑い事ではありませんからねぇ。
このホテルの直ぐ近くに、イスラム革命前までシェラトン・ホテルだったものがあります。ホーマーホテルと名称を変えていますが、今でも5つ星ホテルとして営業されています。長期滞在では部屋が小さいので、5つ星ホテルへの滞在は考えられません。それでも、施設が充実しているので、食事や買い物には便利なものです。
こうして、私のイランでの生活の第一歩が始まったのでした。
(写真は長期滞在者用ホテルの外観です。)
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